セレスアルカの世界観
この世界がまだ脅威にさらされていなかった時代、ある冒険者の手記には、こう書かれていた。
聖道教会アルカ。
遥か天の高みにあり、時の賢人達が住まうとされる地。
その姿を目にした者は誰もいない。
名も、成り立ちも、古代の学者達が想像を巡らせたものでしかない。
雲の彼方に楼閣の影が見えぬかと天を仰いでも、我々の目には何ひとつ映らない。
だが、その実在を疑う者はいないだろう。
世界の各地に、空の上から落ちてきたとしか思えぬ、巨大な建築物の欠片が存在するからだ。
我々の技術ではとうてい作ることができない精巧な機械や、不思議な力を持つ石「コア」もまた、空からの恵みである。
自然界に存在するコア鉱石とは比較にならない高純度の結晶であり、魔術師達の守り石として扱われてきたそれが、持ち主に様々な能力を与えることがわかってきたのは、ごく最近のことだ。
私が思うに、あの巨大な建造物も、機械も、コアを用いて作られたものなのだろう。
いや……コアの能力を引き出すためにこそ、作られたのか?
鶏が先か卵が先か、思いを馳せると時間はあっという間に過ぎる。
思索を刺激する存在に、忘れてはならないものもある。
世界には、太古から存在し続け、全く朽ちることのない奇妙な建物が点在しているのだ。
それは、天よりの落下物との明らかな類似を持ち、大いなる力を示している。
その力に触れた時、あなたが、私と同じように『誰が、なぜ、これを作ったのか』と考えるならば。
あなたは冒険者となるべきだ。
あなたに芽生えたのは、世界を拓き、知り尽くしたいと願う探求の心なのだ。
一生を賭けられる望みは何かと問われたら、私はこう答えるだろう。
聖道教会へと至り、その神秘をすべて解き明かしたい、と。
無邪気な冒険者の願いを叶えるのは、昔も今も、難しいだろう。
天上の庵、聖堂教会が見守る大地にも、争いは絶えない。
300年前、長き戦乱の果てにサルヴィス大陸を統一したアリーグナズ王国。
英明なる女王の元に集った騎士たちは、その血脈の限りまで王国への忠誠と守護を誓い、平和は長く続くかと思われた。
だが、不穏の影は、突如として牙を剥く。
50年前、「カエルム」と呼ばれる異形のモンスター達が突如として現れ、王国を脅かした。
幾つかの村や町が蹂躙され、兵も民も、王国を守るために立ち上がった。
熾烈な戦いの果て、王都防衛の決戦を最後に、大侵攻は終息を見せたが、時の女王、アデライドは事態を深く憂慮していた。
当初は突然変異の希少種かと思われたそれらに、通常の武器がほとんど通用しなかったこと。
また、当初のような数を頼んだ侵攻ではないものの、カエルムの生息域が大陸全土に広まりつつあることから、女王直属の騎士団の指揮下、アリーグナズ王国は国を挙げての対抗策を講じることとなった。
そのひとつが、コア結晶の持つ力を引き出すマシーナ武具である。
マシーナ武具の一種
大侵攻の際、峻嶮な山脈に守られ、戦禍を免れていたニメトン自治区の魔術師達が支援に駆けつけ、大きな役割を果たした。
彼らが駆使する魔法と様々な技……
コア結晶から力を引き出し、行使する「スキル」がカエルムに非常に有効であったことが、その活躍を鮮やかに印象づけている。
また、当時はまだ試作段階であった、高純度のコアを動力として動く大陸最大の武器マシーナが、決戦の主力武器となり得た事実は、未知の技術に対しては慎重派であったアデライド女王をして、マシーナ武具の開発に国力を注ぐ決意を固めさせた。
地域によって分散していた鍛冶屋達はギルドへの加入を義務付けられ、マシーナ研究者との連携を強く求められるようになった。
こうして今日でも、マシーナ武具は研究と改良が重ねられ続けている。
コア
コア自体の研究も進み、純度の高いコアを介し、自然の素材から、様々な特性を持つコアを生み出す技術も開発された。
それらは「レプリコア」の名で呼ばれ、特殊な訓練を積まずとも武具に組み込むだけで扱えることから、広く人々に親しまれている。
また、カエルム討伐のために騎士団を強化、王都防衛戦に参戦した民兵達を中心に、実戦任務を主体とした統合騎士団「テンプルムナイト」が組織されたのも、このころである。
テンプルムナイトは、「所属する国家、組織、種族に関わらず、必要とする人々の声に応じ、民を守る」という理念から海を越えた他国にも支部を持つに到り、王国の管理下を離れた独立組織として、様々な任務を請け負っている。
そして、現在。
大陸全土でモンスターの増殖や凶暴化といった特異な現象が起こりはじめ、再び、カエルムの名が囁かれはじめた時代。
統合騎士団テンプルムナイトは、激化する戦いに備え、各地の駐屯地で志願兵を募っていた。
王都より東方、貿易路の中継地であるのどかな小村、メリーダ村でも、また―――。
メリーダ村